今月出版されるデンタルフロンティアQA誌の「困った時のQ&A」のコーナーに以下のコメントを書きました。
このコーナーは読者である歯科医師の質問に答える形式で構成されるコーナーです。インプラントの質問ばかりでなく一般、審美、歯周から税務まで日頃のちょっとした疑問を主に、幅広く構成されています。
今回、インプラント治療における偶発症についての質問に答えました。
インプラント治療における偶発症で、真っ先に思い立つのが外科的偶発症です。しかし、日常的に高頻度で発生している事は、外科的な事ではなく、補綴、歯周的観点から見た、いわゆるインプラントは骨に接合しているけど、これで良いの?と思えるようなインプラント治療です。この事は、外科的問題とは異なり、一般の患者さんにはなかなか解らない事が多いようです。
このブログ、思ったより歯科業界の方も読んで頂いている様なのですが、歯科技工士の方なら……….同感の方多いのではないでしょうか……..。
歯科治療における良質とは何かの情報公開が望まれます。
ーインプラント治療における偶発症ー
インプラント治療をおける偶発症で、大きく取り上げられる事項に、外科的な偶発症が挙げられる。これらには、下歯槽神経の損傷や上顎洞への感染の波及などや、インプラントコンポーネントの誤飲等が考えられる。
前項は、CT撮影等を行い三次元的な解剖学的形態の精査を行う事、その上で事故の事前回避に努める様、時間をかけ、安全性の確保した手術計画を立案する事が必要である。
コンポーネントの誤飲等は、咽頭にガーゼを敷く事や、器具に糸を結ぶ事などにより回避する事が出来る。全身状態の診断は専門医に対診する事も必要な場合もある。外科的項目については、多くの外科術式マニュアルに掲載されており、ここでは簡単にとどめる。
外科以外の偶発症について考えてみたい。近年、他院にてインプラント治療終了後の患者のセカンドオピニオンを受ける機会が増えてきた。それらの経験から、広義の意味でのインプラント治療の偶発症について考察してみたい。相談の多くを分類すると1.咬合関係の異常2.歯周環境異常に大別される事が多い。
1.咬合関係の異常、
これらを主訴とする患者を精査すると、遊離端症例の欠損部に、ただ単にインプラントを埋入し、欠損部の補綴を行っているケースが多い事に気づく。
低位咬合を伴う顎関節の後方転移等が生じているにも関わらず適正顆頭位を見失ったまま治療を進めた結果生じていると考えられる。残存歯の咬合関係や咬合平面、下顎の三次元的位置関係など、欠損部の診査以外に多くの診査項目のある事を忘れてはいけない。
2.歯周環境の異常、
インプラント周囲の腫脹、出血、時としてインプラントの動揺を主訴とする。
インプラント補綴周囲の歯周環境を良好に保つためには、三次元的に良好な移入位置、歯周環境に調和した補綴物の二つによって達成できる。大切な事は、メインテナンスの行い易い歯冠形態や歯周環境を具現化できる治療計画を立案する事である。また歯周疾患に罹患した残存歯の予知性や、咬合負担能力等もインプラント治療を行うにあたり十分に検討しなければならないし、咬合関係は1.に述べた通りの診査事項となる。埋入手術前に歯周治療は終了させておく事は必要条件となる。
上記の事は、インプラント治療を治療のゴールと考えてしまい、欠損部のみを見てしまった結果生じる、広義の意味の偶発症と考えられる。これらは、臨床の現場では外科的偶発症より高い確率で発生している様である。
欠損部におけるインプラント治療は目的ではなく、手段である。全体を見ずしてインプラント治療は行えない。治療結果を予知性高く長期間良好に保つためには、全顎的に良好な包括的な歯科治療を施術する事が大切である。そのためには、咬合、歯周共に調和した全顎的な歯科治療を行うための診査診断を注意深く行い、そして施術する事が、これらのリスクを回避する唯一の方法であると考えられる。
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